大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)593号 判決

和歌山県新宮三、八八五番地

原告

広里直太郎

右訴訟代理人弁護士

田中美智男

和歌山県新宮市新宮一二三二番地の一

被告

新宮税務署長

下村芳夫

右指定代理人検事

二井矢敏朗

法務事務官 金原義憲

大蔵事務官 中西一郎

大蔵事務官 樋口正

大蔵事務官 村上睦郎

右当事者間の更正処分取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、原告の再々更正処分の取消を求める訴えを却下する。

二、被告が昭和四一年八月一一日付で原告の昭和四〇年分所得税についてなした総所得金額を二九七万五、〇五五円とする再更正処分(その後再々更正処分により総所得金額は二六五万一、六九六円に減額されている)のうち二三一万七、三〇三円を超える部分は、これを取消す。

三、原告のその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告が昭和四一年八月一一日付で、原告の昭和四〇年分所得税についてなした総所得金額を二九七万五、〇五五円とする再更正処分(その後再々更正処分により総所得金額は二六五万一、六九六円に減額された)のうち、七一万八、二七〇円を超える部分を取消す。

2  被告が昭和四三年一〇月二二日付で、原告の前記所得税についてなした総所得金額を二六五万一、六九六円とする再々更正処分のうち、七一万八、二七〇円を超えた部分を取消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

1  本案前の申立

(一) 原告の再々更正処分の取消を求める訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

2  本案の申立

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二、原告の請求原因

一、原告は、昭和四一年二月二八日、昭和四〇年分所得税について総所得金額を二八万四、〇〇〇円(給与所得のみ)として確定申告をした。

被告は、昭和四一年六月二七日付で、総所得金額を二七九万五、〇五五円と更正(以下本件更正処分という)し、その旨原告に通知した。そこで、原告は、昭和四一年七月一三日、被告に対して、異議申立てをした。

ところが、被告は、同年八月一一日付で、総所得金額を二九七万五、〇五五円と再更正(以下本件再更正処分という)し、その旨原告に通知した。そこで、原告は、右再更正処分を不服として、同年八月一六日被告に対して異議申立てをしたが、その後同年九月一六日、これを取り下げた。

そして原告の昭和四一年七月一三日の異議申立ては、同年一〇月一四日付で大阪国税局長に対する審査請求とみなされ、同局長は、昭和四三年三月一五日、原処分の一部を取消し総所得金額を二六五万一、六九六円と変更する旨の裁決をした。

その後被告は、昭和四三年一〇月二二日、右裁決に従い、総所得金額を二六五万一、六九六円と減額する旨の再々更正(以下本件再々更正処分という)をした。

二、しかし、原告の昭和四〇年分の総所得金額は、給与所得二八万四、〇〇〇円と譲渡所得四三万四、二七〇円の合計七一万八、二七〇円だけである。従つて、被告のした本件再更正処分、再々更正処分には原告の所得を過大に認定した違法があり、右金額を超える部分の取消を求める。

第三、被告の答弁および主張

一、本案前の主張

被告が昭和四三年一〇月二二日なした再々更正処分は昭和四一年八月一一日付でなした再更正処分より納付すべき税額を減少させる処分であり、原告に何ら不利益を与えるものではない。

従つて、原告の再々更正処分の取消を求める訴えは、訴えの利益を欠き不適法である。

二、請求原因に対する認否

請求原因一項の事実は認め、二項は争う。

三、処分の根拠に関する主張

1  原告の昭和四〇年分の総所得金額は、三一七万三、八六五円で、その内訳は次のとおりである。

給与所得 二八万四、〇〇〇円

不動産所得 一一万九、〇四八円

譲渡所得 二七七万〇、八一七円

合計 三一七万三、八六五円

2  不動産所得一一万九、〇四八円について

原告が木村繁雄に賃貸している新宮市横町二丁目四の二所在の家屋(家屋番号三七番、居宅兼店舗、床面積延八二・三四平方メートル、以下本件建物という)の家賃で、二ケ年分の前払として受領した六〇万円のうち昭和四〇年分に対応する収入金額二四万円(月額二万円)から、土地所有者玉置笛代に支払つた地代六万円(月額五、〇〇〇円)、右建物の固定資産税四、七一〇円、減価償却費五万六、二四二円を控除した金額である。

なお、建物の減価償却費五万六、二四二円を算出する方法は、定額法により、右建物の取得価額一八三万八、〇〇〇円から残存価額一八万三、八〇〇円を控除した一六五万四、二〇〇円に、耐用年数三〇年の償却率〇・〇三四を乗じて計算した。

3  譲渡所得二七七万〇、八一七円について

(一) 原告は、まず昭和四〇年一一月二一日、新宮市上本町一丁目一の四宅地一七七・四二平方メートルおよび同地上建物床面積一〇八・二六平方メートル(以下甲物件という)を、中塚正義に譲渡し、ついで昭和四〇年一二月一一日三重県南牟婁郡紀宝町成川字垣ノ内六五六の一、六五六の二、六五七の一、六五七の三の宅地合計八八五・一二平方メートル(以下乙物件という)を三重県紀宝町(以下紀宝町という)に交換契約に基づき譲渡し、同年末には乙物件の地上建物(以下丙物件という)を西垣戸定助に譲渡した。

これらの資産の譲渡による所得二七七万〇、八一七円は、右譲渡資産の総収入金額一、三〇〇万円から、差引取得費九九七万九、一八三円(取得費九九八万五、九二〇円から建物の減価償却費六、七三七円を差引いた金額)、譲渡に要した費用一〇万円、および特別控除額一五万円を控除した金額である。

(二) 総収入金額一、三〇〇万円の内訳は次のとおりである。

(1) 原告は、甲物件を代金四〇〇万円、丙物件を同五〇万円で中塚正義らにそれぞれ売渡した。

(2) 原告は、乙物件の所有権を紀宝町に移転し、紀宝町は、同町成川字谷の川一、〇八二番地の二地内の宅地二六三坪(以下谷の川の土地という)の所有権を原告に移転したほか四五〇万円を支払つた。

ところで、右谷の川の土地は、紀宝町が総面積約一、〇〇〇坪の宅地造成をしたうえ、昭和三九年二月二〇日そのうち約六〇〇坪を坪当り一万五、〇〇〇円で一般公募により分譲した残りのうち二六三坪であり、右分譲土地と隣接すること、原告が右谷の川の土地の譲渡を受けたのは右分譲時期の約二年後の昭和四〇年一二月一一日であり、その間少なくとも坪当り二〇〇円以上の値上りがあつたこと、紀宝町議会において右谷の川の土地を一応坪当り約一万五、二〇〇円として四〇〇万円と評価し、右評価につきさらに増額交渉を原告とする旨の付帯決議をなしていること等からすると、右谷の川の土地の前記交換契約当時における時価は四〇〇万円であつたと認められる。

故に、右交換により原告に生じた譲渡所得についての収入金額は、右谷の川の土地の時価四〇〇万円に、現金で支払を受けた四五〇万円を加えた計八五〇万円である。

(3) 右の甲物件の四〇〇万円、乙物件の八五〇万円、丙物件の五〇万円を加算した一、三〇〇万円が、総収入金額である。

(三) 取得費九九八万五、九二〇円の内訳は次のとおりである。

(1) 甲物件の取得費 三五四万一、九九〇円

原告は、昭和四〇年九月二一日和歌山地方裁判所新宮支部の競売において甲物件を競落取得したが、その取得費の内訳は次のとおりである。

競落代金 三三三万円

登記料等 一六万六、八七〇円

不動産取得税 四万五、一二〇円

合計 三五四万一、九九〇円

(2) 乙丙物件の取得費 合計六四四万三、九三〇円

原告は、昭和四〇年二月六日中西新太郎から、同年一一月一日奥地初美から、それぞれ乙、丙物件の持分を買受けたが、その取得費の内訳は次のとおりである。

中西新太郎に支払つた代金 二九〇万円

奥地初美に支払つた代金 三五〇万円

不動産取得税 四万三、九三〇円

合計 六四四万三、九三〇円

(3) 右甲物件の取得費三五四万一、九九〇円、乙丙物件の取得費六四四万三、九三〇円を加算した九九八万五、九二〇円が、総取得費である。

(四) 建物(丙物件)の減価償却費六、七三七円の算出方法は次のとおりである。

乙および丙物件の取得価額六四四万三、九三〇円のうち、建物(丙物件)の取得費を六五万一、〇〇〇円(相続税評価額と同額)と認定し、中西新太郎ら両名から取得した建物持分の取得費を、各二分の一相当の三二万五、五〇〇円とした。

右建物の減価償却の方法は、定額法により、その取得費三二万五、五〇〇円から残存価額三万二、五五〇円を控除した二九万二、九五〇円に、耐用年数四五年(改正前の耐用年数三〇年に所得税法施行令第八五条第一項の規定による一・五を乗じて計算した耐用年数)の償却率〇・〇二三を乗じて計算するのであるが、償却期間は、取得の日から譲渡の日までの期間によるべきところ、中西新太郎から取得した建物持分の償却期間は一〇ケ月(六ケ月以上の端数)であるから一年とし、また奥地初美より取得した建物持分の償却期間は一ケ月余り(六ケ月に満たない端数)であるため、切捨てて計算することとなり、結局減価償却費の対象とならなかつた(所得税法施行令第八五条、非事業用資産の減価額の計算を参照)。

325,500円-32,550円=292,950円

292,950円×0.023×1=6,737円

(五) 譲渡に要した費用一〇万円について

原告は、甲物件を譲渡するにつき中西新太郎に仲介手数料として同額の金員を支払つた。

第四、被告の主張に対する原告の答弁等

一、被告主張の総所得金額のうち給与所得二八万四、〇〇〇円および譲渡所得のうち四三万四、二七〇円は認めるが、その余は否認する。

二、(不動産所得について)

原告は、昭和三九年暮頃、本件建物を崔斗煥に売却し、その際、木村繁雄との間で右建物の賃貸借契約を解除するとともに、すでに受領していた前受賃料のうちそれ以後の賃料に相当する三六万円を右木村に返還した。従つて、昭和四〇年分の不動産所得はない。

(譲渡所得について)

1 第三の三の3の(一)および(二)の(2)の事実中、原告が交換契約に基づき昭和四〇年一二月一一日乙物件の所有権を紀宝町に移転し、紀宝町が谷の川の土地(ただし、その面積は二六七・八二坪である)の所得権を原告に移転したほか四五〇万円を支払つたこと、原告が丙物件を西垣戸定助に譲渡したこと(ただし、その時期は3で述べるとおりである)は認めるが、その余の事実は否認する。第三の三の3の(二)の(1)、(三)の(1)および(2)、(五)の事実(ただし(二)の(1)の甲物件については譲渡価額のみ)は認める。

2 甲物件は、もと植田主喜が所有していたが、当時これには、第三者のために抵当権が設定されており、それが実行されることとなつて、同人は原告名義で甲物件を競落取得し、それを他に処分するよう依頼した。そこで、原告は、甲物件を原告名義で競落取得したうえ中塚正義に譲渡したもので、その譲渡益は全部植田主喜に交付ずみであり、原告には何ら甲物件の譲渡益は存しない。

3 原告が西垣戸定助に丙物件を譲渡したのは昭和四一年春頃であるから、昭和四〇年分の譲渡所得とはならない。

4 原告が紀宝町から交換取得した右谷の川の土地二六七・八二坪は、紀宝町が分譲した土地の売れ残りの部分で、場所柄も悪く一番評価の低いところであつて、適正価額は坪当り一万円として二六七万八、二〇〇円である。

5 甲物件の取得費としては、被告主張の三五四万一、九九〇円のほかに甲物件競落の際の登記費用一六万六、八七〇円の借入利息四、六七二円がある。

6 乙丙物件の取得費としては、被告主張の六四四万三、九三〇円のほかに、庭園の木石代金八〇万円がある。

すなわち、原告は、前田啓吾から、乙物件上に存在した庭園の木石を八〇万円で買い受け、これらの木石も乙物件とともに紀宝町へ譲渡した。

7 仮りに、丙物件を西垣戸定助に譲渡した時期が昭和四〇年中であつたとしても、丙物件の取得費は、譲渡価額と同じ五〇万円であるから、譲渡による所得は存しない。

第五、原告の主張に対する被告の反論

譲渡所得の金額の計算上控除さるべき資産の取得に要した金額(所得税法第三八条第一項)とは、資産の取得代金のほかに、登録税もしくは登録手数料および不動産取得税など、当該資産を取得するため直接要した費用をいうと解すべきところ、借入金利息は右費用に含まれないから、取得費として控除されない。

第六、証拠

一、原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一・二、第五、第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一一号証、第一二号証の一・二、第一三号証、第一四号証の一・二、第一五ないし第二〇号証を提出。

2  証人植田主喜、同中西新太郎、同宇城正蔵の各証言、原告本人尋問の結果(第一・二回)を援用。

3  乙第一、第二号証、第七号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告

1  乙第一ないし第七号証を提出。

2  証人七滝恒雄、同谷津守、同河口進の各証言を援用。

3  甲第五号証、第八号証、第一二号証の二、第一四号証の二、第一六ないし第一八号証の成立は不知、甲第一二号証の一、第一四号証の一は官公署作成部分のみ成立を認めその余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

第一、原告の本件再々更正処分の取消を求める訴えの適否について

一、請求原因一項の事実は当事者間に争いがない。

二、本件再々更正処分は、再更正処分における課税総所得金額および税額を減少させる更正処分で、再更正処分の一部を取り消す効力を有するに止まり、原告にとつて利益な処分であるから、その取消を求める訴えは法律上の利益を欠くと解せざるを得ず、不適法といわなければならない。

第二、原告の昭和四〇年分の総所得金額について

一、給与所得について

原告の昭和四〇年分の給与所得の金額が二八万四、〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

二、不動産所得について

成立に争いのない甲第一九号証、乙第七号証、並びに原告本人尋問の結果(第一、二回、但し後記信用しない部分を除く)を総合すれば、原告は、昭和三八年一二月一七日、本件建物を木村繁雄に賃貸し、その際二ケ年半分の賃料前受分として六〇万円(月額二万円)を受領したこと、原告は右建物を昭和四一年二月二五日崔斗煥に売却し、同年三月一〇日所有権移転登記を了したが、その際、原告は、右建物の賃貸借契約を解除し、前受賃料のうち未経過分を右木村に返還したことが認められる。右認定に反する原告本人尋問の結果(第一、二回)は、前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、また甲第一七号証も原告本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められるが、後日作成されたものであることはその日付によつても明らかで、その記載内容は直ちに信用することができず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

本件建物の敷地の地代六万円(月額五、〇〇〇円)、右建物の固定資産税四、七一〇円、減価償却費五万六、二四二円については、原告において明らかに争わないところである。

以上の事実によれば、原告は、昭和四〇年中は右建物を木村繁雄に賃貸していたもので、同人から受領した本件建物の前受賃料六〇万円のうち、昭和四〇年分に対応する収入金額二四万円(月額二万円)から、必要経費である土地所有者に支払つた地代六万円、建物の固定資産税四、七一〇円、の減価償却費五万六、二四二円を控除した、一一万九、〇四八円は昭和四〇年分の不動産所得の金額であると認められる。

三、譲渡所得について

1  原告が、昭和四〇年一二月一一日、交換契約に基づき、乙物件を紀宝町に譲渡したことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第四号証の一・二、第六号証、第七号証の一ないし三、乙第二号証、弁論の全趣旨より真正に成立したと認められる甲第五号証。証人河口進の証言によつて真正に成立したと認められる乙第五、第六号証、並びに証人中西新太郎、同河口進の各証言を総合すれば、原告は、昭和四〇年九月二一日、和歌山地方裁判所新宮支部の不動産競売において、植田主喜が所有していた甲物件を競落取得し、同年一一月二一日、中西新太郎の仲介で、右物件を中塚正義に譲渡したこと、甲物件の競落および譲渡は名実ともに原告だけの意向によるもので、原告主張のように右植田の依頼によるものではなかつたことが認められ、右認定に反する証人植田主喜、同宇城正蔵の各証言、並びに原告本人尋問の結果(第一・二回)およびこれらにより真正に成立したと認められる甲第一二号証の一・二、第一六号証。第一八号証の記載内容は、前掲各証拠と対比して容易に措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

つぎに、原告が丙物件を西垣戸定助に譲渡したことは当事者間に争いがなく、証人谷津守の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四号証、並びに証人谷津守、同七滝恒雄の各証言を総合すれば、その時期は、昭和四〇年の年末であつたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(第一・二回)およびこれにより真正に成立したと認められる甲第一四号証の一・二の記載内容は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  すると、原告は本件課税年度である昭和四〇年中に甲、乙、丙物件などの資産を売却あるいは交換したのであるから、これによる所得(譲渡所得)があれば、それが課税の対象となることはいうまでもない(「資産の譲渡による所得」の中に資産の交換による所得が含まれることは所得税法第五八条第一・二項などの規定に照らして明らかである)。そして、譲渡所得の有無、その金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から取得費(建物については減価償却費を控除する)、譲渡費用、特別控除額を控除した金額によるのであるから(同法第三三条第三項、第三八条)、以下これらについて判断する。

(一) 総収入金額

ここに総収入金額というのは、収入すべき金額の合計額で、交換のように金銭以外の物または権利をもつて収入すべき場合には、当該物または権利の価格をいうが(同法第三六条第一・二項)不動産などの売買の場合には、その譲渡価額にしたがつて計算すべきところ、原告が、甲物件を中塚正義に譲渡した際の価額が四〇〇万円で丙物件を西垣戸定助に譲渡した際の価額が五〇万円であつたこと、原告が乙物件の所有権を紀宝町に移転し紀宝町はこれと引換えに谷の川の土地の所有権を原告に移転したほか、現金で四五〇万円を支払つたことは、当事者に争いがない。

ところで、成立に争いのない甲第一三号証、証人七滝恒雄の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三号証、並びに同証人の証言、原告本人尋問の結果(第一回、但し後記信用しない部分を除く)を総合すれば、右谷の川の土地は、紀宝町が、総面積約一、〇〇〇坪の土地を埋立て、道路や水路を敷設して宅地造成したうえ、昭和四〇年頃そのうち約六〇〇坪を坪当り一万五、〇〇〇円で一般公募により分譲した残りのうち二六三坪であること、原告が交換によつて取得した右谷の川の土地二六三坪は、右分譲土地と隣接しており、場所的にみて右分譲土地と同額程度に評価できる土地であること、紀宝町議会において、右谷の川の土地を一応坪当り一万五、二〇〇円で四〇〇万円と評価し、右評価につきさらに原告と増額交渉をする旨の付帯決議をなしていること、右交換交渉の際、紀宝町長は、原告に対し、右谷の川の土地二六三坪を四〇〇万円と評価し、さらに差額四五〇万を現金で支払うことを条件に、乙物件を紀宝町へ譲渡するよう申入れ、原告はこれを承諾したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人中西新太郎、同宇城正蔵の各証言、並びに原告本人尋問の結果(第一回)は、前掲各証拠に照し容易に措信しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、紀宝町が原告に所有権を移転した谷の川の土地の面積は二六三坪で、その価格は坪当り一万五、〇〇〇円とするのが相当である。被告は、分譲地六〇〇坪を坪当り一万五、〇〇〇円で一般公募により売り出したのは昭和三九年二月二〇日で、乙物件と谷の川の土地二六三坪との交換契約が締結された昭和四〇年一二月一一日との間には約二年間の隔たりがあり、その間少なくとも坪当り二〇〇円の値上りがあつたはずだから坪当り一万五、二〇〇円が相当であると主張するところ、紀宝町議会において右土地の価格を一応坪当り一万五、二〇〇円と評価し、乙物件との交換交渉の際、紀宝町長が、土地二六三坪を四〇〇万円と評価し、さらに差額四五〇万円を現金で支払い、総額八五〇万円で乙物件を紀宝町へ譲渡するよう申入れ、原告がこれを承諾したようないきさつがあつたことはすでに認定したところであるが、これだけの事実から直ちに、右谷の川の土地二六三坪の客観的価格が坪当り一万五、二〇〇円以上で四〇〇万円であることまでは認定できず、他に右主張事実を認めさせるに足りる証拠はない。

すると、右谷の川の土地二六三坪の価格は、坪当り一万五、〇〇〇円で三九四万五、〇〇〇円であるから、現金受領額四五〇万円と合わせて八四四万五、〇〇〇円が、乙物件譲渡による収入金額ということになり、甲物件の四〇〇万円、乙物件の八四四万五、〇〇〇円、丙物件の五〇万円を加算した一、二九四万五、〇〇〇円が、右各物件の譲渡による総収入金額ということになる。

(二) 取得費

原告が、甲物件の取得費用として、競落代金三三三万円、登記料等一六万六、八七〇円、不動産取得税四万五、一二〇円の合計三五四万一、九九〇円を支出し、乙丙物件の取得代金として、中西新太郎に二九〇万円、奥地初美に三五〇万円を支払い、不動産取得税四万三、九三〇円を支出したこと(以上取得代金等合計六四四万三、九三〇円)は、当事者間に争いがない。

前顕甲第五号証および弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四〇年一〇月二九日甲物件の登記料等に充てるため、新宮中小金融株式会社から六万六、八七〇円を借受け、同年一一月二五日、その利息として四、六七二円を同会社に支払つたことが認められる。

しかし、所得税法第三八条第一項所定の資産の取得に要した金額とは、資産を取得するために直接必要な支出をいうものと解すべく、登記料等の支払に充てるために借り受けた借入金に対する支払利息は、これに当らないから、原告主張の登記費用の借入れ利息四、六七二円は、取得費用としては認められない。

次に、原告本人尋問の結果(第一、二回)およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第八号証、によれば、原告は、昭和三八年一二月一三日、当時乙、丙物件の所有者であつた前田啓吾から、同人に対して有していた債権六〇万四、〇〇〇円をその代金の一部に充て、ほかに現金一九万六、〇〇〇円を支払つて、合計八〇万円で、乙物件上にあつた庭園の庭木、庭石を買受けたこと、昭和四〇年一二月一一日乙物件を紀宝町へ譲渡する際、原告は、右前田から買い受けた庭木、庭石の一部を乙物件とともに紀宝町に譲渡したこと、譲渡しないで残された庭木は小さい価値のないものであつたことが認められる。

ところで、一般に、必要経費の点も含め、課税所得の存在については課税庁側に立証責任があると解すべきであるから、被告は、その主張を維持するためには、原告の主張する庭園の木石の取得に要した費用八〇万円の不存在を立証しなければならないところ、原告は、右前田から庭園の木石を八〇万円で買受け、そのうち値打ちのあるものは殆ど全部紀宝町に譲渡したというのであり、紀宝町へ譲渡しなかつた木石の価額がいくらであつたかを認定できるだけの証拠はないから、前記立証責任の法則上、原告の主張する庭園の木石の取得費用八〇万円は譲渡所得の算定に当り、譲渡資産の取得費用のうちに算入しなければならない。

すると、乙丙物件の取得費用は、当事者間に争いのない前記六四四万三、九三〇円に、右庭園の木石の取得費用八〇万円を加算した、七二四万三、九三〇円ということになり、甲物件の三五四万一、九九〇円、乙、丙物件の七二四万三、九三〇円を加算した一、〇七八万五、九二〇円が、右各物件の取得費である。

(三) 減価償却費

取得費から控除すべき建物の減価償却費の算出に当り、被告は丙物件の取得費を六五万一、〇〇〇円としているが、これを認めるに足る証拠はなく、一方、原告はその取得費を五〇万円と主張しており、原告が昭和四〇年末丙物件を代金五〇万円で売却したことは前叙のとおりであり、かつ、原告が丙物件の所有者である中西新太郎および奥地初美から各持分を買受けたのが同年二月六日および同年一一月一日であることは当事者間に争いがないから、丙物件の取得費は五〇万円、右両名からの各持分取得費はその二分の一の二五万円として、減価償却費を算定するのが相当である。これによつて計算すると、丙物件の減価償却費は、五、一七五円となる。

〔算式〕

250,000円-25,000円=225,000円

225,000円×0.023×1=5,175円

(四) 譲渡費用

原告が、甲物件を中塚正義に譲渡するにつき、中西新太郎にその仲介手数料として金一〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

(五) 特別控除額

所得税法(昭和四〇年三月三一日法三三号)第三三条第四項により一五万円である。

3  原告は、丙物件の取得費用は譲渡価額と同じ五〇万円であるから、丙物件についての譲渡益は存しないと主張するが、譲渡所得金額の有無は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となつた資産の取得費等を控除した金額によるのであつて、個々の譲渡資産について譲渡益が存在するか否かとは直接関係がない。

4  以上の認定によると、原告の昭和四〇年分の譲渡所得は、甲、乙、丙物件譲渡による総収入金額一、二九四万五、〇〇〇円から、右物件の差引取得費 一、〇七八万〇、七四五円(右物件の取得費一、〇七八万五、九二〇円から建物(丙物件)減価償却費五、一七五円を控除した金額)、甲物件の譲渡費用一〇万円、および特別控除額一五万円を控除した一九一万四、二五五円である。

四、すると、原告の昭和四〇年分の総所取金額は、給与所得二八万四、〇〇〇円、不動産所得一一万九、〇四八円、譲渡所得一九一万四、二五五円を合算した、二三一万七、三〇三円である。

第三、結論

よつて、原告の再更正処分の取消を求める本訴請求は、総所得金額二三一万七、三〇三円を超える部分の取消を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分は失当であるから棄却し、原告の再々更正処分の取消を求める訴えは、不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 紙浦健二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例